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No.2916 ハリルと由伸、世代交代の妙

2017.09.01

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 まずはワールドカップ・ロシア大会出場決定めでたしめでたし。日本選手団の奮闘に感激した2時間。難敵オーストラリアに完封勝利は大方の予想をくつがえす結果だったのではないだろうか。なにより、浅野のテクニカルシュートも井手口の弾丸シュートも、しばらく目にしていなかったシュートの見本のようなビューティフルシュートだった。とくに長友のセンタリングアシストがあっての浅野弾も見事だったが、井手口のそれは日本の選手があまり見せてくれないボールコントロールからのシュートだった。
 ところで、井手口陽介という21歳の小ぶりな選手はまったくノーチェックというか知らない存在だった。自身とことんサッカー通とは言えるほどではないし、試合数もテレビ中継も野球ほどではなく、ガンバ大阪ということもあってなじみがなかったが、この豪州戦で初めて意識してその躍動ぶりを目にすることとなった。試合開始の頃は、2番と3番の選手って誰だろう?と家内と話していたくらいなのだ。スタミナと脚力、そしてボールコントロールなど、すべてにおいてこれほど光り輝いた選手は久しぶりではないだろうか。あの流れでシュートを決めた時間帯を考えると、90分を安心して任せられる選手だということがわかる。

 ハリルホジッジ監督の選手起用が結果的に世代交代という形で花開いたと見るべきだろうが、ある意味消火試合ともなった次のサウジ戦でどういった采配を示すか興味深い。本田と香川を最後まで待機させ、プレミアで好調の岡崎まで終盤にわずかな出番に終わった。未知の選手を使うのも、実績のある選手を使わないのも監督としてなかなか決断力のいることだ。選手によっては反旗を翻すことも無くはない。今年前半、鹿島アントラーズの金崎選手がそれに近い態度から出場停止になったことがたしかあったと思う。
 「ハリルの涙」にはそうした決断が実ったことへの達成感と安堵感からのものだったのではないだろうか。こうした選手起用がはずれた場合、奇をてらいすぎ!と揶揄されることも覚悟しなければならない。そういう意味で、世代交代は早すぎても遅すぎてもいけないタイミングと運があってのものなのだ。

 かなり前に書いたが、今年の巨人、由伸監督の采配は若手起用に趣きが置かれた。前年度もその傾向があったが、陽が出てくるまでは外野の2ポジションとセカンドに1年フル活動の実績がない若手に亀井を加えとっかえひっかえ起用した。とっかえひっかえというのは相手投手にもよるだろうが、続けて起用したくなる安定した活躍を示す選手がいなかったこともある。捕手の小林も含めると3~4人に未知の期待をしたことになる。せいぜい日ハムから移籍した石川がまあまあといったところか。
 世代交代を意識し、テーム成績に若手が好結果をもたらす手腕が評価されることほど監督冥利につきるものはない。しかし、安定した実績のある選手を外人選手に求めるきらいがあるのも日本のプロ野球の特徴としてあり、巨人はとくにFAと合わせてこれを多用しがちだ。なんと昨年のレギュラー陣で安打160、打率302、打点81、本塁打25、という成績を残した村田の代わりに楽天を退団しメジャーに帰っていたマギーを獲った。阿部の一塁固定と村田の守備位置からして控えが確定的となった。ところが起用する若手が安定的な活躍を示せず、成績が低迷したことからマギーを2塁に起用することで後半戦は重量打線で活路を見出すこととなった。その効果は結果が示している。他にもギャレットや片岡が2軍でくすぶったままで、とくにFAで獲った片岡は若手のみならずマギーにも定位置を譲り続け、未だに1軍へのお呼びがかからない状況である。このあたりは由伸監督の采配というよりは巨人だけが持つ贅沢病かもしれないと思っている。
 

 いくら力がある村田とて代打生活ではなかなか実績を積むことは難しい。代打生活は一流打者にいつかは来る運命かもしれないが、イチローでさえ、今年は主に代打の出番で2割前半の打率である。弱小チームゆえ出番が多いことから代打でのヒット数はメジャー記録を破る可能性もあるが、数と率の違いは別のものである。
 だが、村田の昨年の実績は伊達ではなかった。彼を控えに回すのは早計だったということである。ケガから戻った陽を一番に据え、マギー2番、村田5番、亀井も6番に固定され、長野7番というほぼ不動のオーダーになってからは快進撃とまではいかないまでも盛り返すムードは与えてくれるようになった。投手に安定感が保たれ、畠という新人が頭角を示し始めたこともあるが、相手投手としては一発のある打者が居並ぶ打線は失投が許されないという強烈なストレスを感じることになる。昨年、村田に打たれた投手は少なくないわけで、今年の巨人は村田をはずすことになる世代交代オーダーはタイミングとしてするべきではなかったと感じる。今日のDNA戦で強烈なライナーを飛んで好捕した。まだまだやれる。まだクライマックスシリーズへのチャンスはあるが、2年続けてペナントレースをはずしたならば「由伸の涙」はハリルとは異質の涙となることだろう。