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No.3195 防災対策の総括を

2019.10.19

 台風15、19号がもたらした広範囲に及ぶ国家的災害と、停電など多岐にわたる災害の実態は、住民個々の防災意識を高めることになった。いや、そうあって当然のことと思うのだが、住民の対応だけで足りるはずもないことから、ハード・ソフト両面での行政予算と防災意識の在り方を改めて考えさせられることとなった。とにかく、幸手市に限らず緊急災害時対策の準備対応が不足していた自治体が多かったことがわかった。過去の災害の教訓どころの話でなかったということである。
 そういえば、幸手市の避難場所の一つである市役所でのことだが、「市長を出せ!」とすごんだ市民がいたという。市長に会ってどうするというのだろう。こうした認識の市民がいることも理解の上で、災害対策を練らなければならないわけで、なんとなく複雑な想いだ。人命は皆平等なのだ。

ファイル 1106-1.jpg 一昨日、木更津の親類宅に出かけた。15号の被害を、特に停電という結果で受けた家族で、9月に尋ねる予定がここまで延びた。しかも目的に見舞いという内容が伴った。途中、災害派遣という文字を張った第一空挺団習志野駐屯地からの車両を何台も見かけ、市原SAではかなりの車両がレストタイムをとっていた。
 親類は5日近くの停電で終わったそうだが、生活の不便さは進むに連れて恐怖感に近くなっていったという。事実、今も寝込んだ状態の者がいたくらいだ。一種のPTSDに近い状態になってしまうようで災害も広範囲だ。
 ついでに鋸南、君津といった地区を2時間ほど走ってみたが、ブルーシートに覆われた家屋を多く見た。大木の無残な姿や竹林が長い距離に渡って横倒しになっている光景にも出会った。写真は、南房地区の集落だがこの中にも20軒ほどのブルーシート屋根が見られるのです。

 ある学識者が「復興予算の前に防災予算を増額することを考える必要がありますね」という発言を聞いて、正にその通りだと感じた。復興予算は言ってみれば事後予算であり、そこには被災者支援予算も含まれる。今回、安倍総理が長野のホテルの借上げや公務員施設の提供を表明したことなどがそれに当たると思うが、かの学識者の論は、限りなく災害を未然に防ぐハード面での対応を説くものであった。
 近年の雨の降り様は、わずか数年前とはまったく異なるということを世界各地の実態からもあきらかであり、根本的に河川氾濫対策を講じる必要性を示唆している。例えば、今回大河川に設置してあるライブカメラの存在意義が高まった。避難すべきかどうかの判断を行政に委ねる前に自己判断できるほどであった。それが早ければより遠方に車での避難も可能ということになる。また、家屋内では1階にある大切なものを2階に移動する余裕も持てるし、避難に対する基本的準備も出来る。まさに自助である。
 ところが、このライブカメラは大河川のみの状況なので、中小河川への設置は無いのが現状だ。国と自治体の共同で暴れ川と化す中小河川のライブカメラの設置を急ぐ必要があると感ずる。そして、それ以前の問題として、堤防強化事業を速める必要もあるだろう。千曲川、阿武隈川、那珂川といった大河川は通常、観光資源としても活かされているが、人命を奪う激流に変貌しないためにも、支流との係わりをもう一度調査研究し、防災機能の向上を構築していかなければならない。大河川自体の決壊はもとより、中小支流河川の実態把握と決壊防止策はもはや時を待たない。復興予算の緊急出動が少なくなるということは、すなわち防災対策の進展を意味するものと考えれば、徹底的に事前予算を振り向けるべきである。

 国政では、与野党無く災害対策を政治的に構築するべきであるのに、大臣の発言を即批判に結び付ける立憲民主党の幹部議員や、災害混乱時に一般質問の通告を深夜まで引き延ばす議員の存在など、災害に立ち向かう精神に程遠い実態を嘆かわしく感じる。
 是非論いろいろとは思うが、八ッ場ダムは間違いなく利根川流域を守った。1,240,000㎥の東京ドームに対して107,500,000㎥の八ッ場ダム。なんとドーム86倍分の総貯水量を誇るこのダムが、12日、13日の2夜でほぼ満杯になったのだ。しかも、来年3月の竣工を目指し試験貯水を3カ月ほどかけて行う矢先のことであった。これだけの水が利根川に流れていたら、千曲川氾濫以上の規模の流域水害をもたらしていたかもしれないのだ。
 スーパー堤防の貢献度も高かった。越水近くまで水位が上がった加須栗橋地区を思うと、これがカスリン台風の再現を未然に防いだ一因だと確信出来る。
 遠く下って、首都圏外郭放水路もしかりだ。幸手以南の水引は圧倒的に早まっている。約2,500億円という事業規模のこの放水路には海外からの視察も多いという。
 こうして考えると、「コンクリートから人へ」というキャッチは、実は「コンクリートが人の命を守る」のが真実であることを悟った台風だったとは言えないだろうか。
 激流に呑み込まれる家屋や、土砂につぶされる家屋が多いことを考えると、家屋建設の建築及び立地条件を高める必要があるかもしれない。被災者の今日を生き抜く心構えに加え、先行き不安な精神状態を画面から感じるにつけ、自殺者が出ても不思議ではないと思えてならない。そんなこともふまえて、そうした法整備も迅速に進めることが求められる。それと同時に、国家予算に対する防災予算の比率を上げ、防災計画をランクアップして早めることを与野党共通認識の中で進めて欲しいと思うがいかがなものだろうか。