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No.3203 幼保無償化の功罪

2019.11.12

 10月から幼児教育の新制度が始まったことはすでにご承知のことと思います。収入の低い家庭を視点に、どの子どもも平均的に通園受益を受けることを目的として始まったわけですが、タイミングとして消費税引き上げを考慮したものでもありました。ところが、国の調査によると制度開始直前になって便乗値上げと思われる実態が相当数あり、関係者に戸惑いが広がっているというのです。
 制度としては、無限の無償化ではなく月25,700円を上限とされていますが、わかりやすく言えば、この上限幅にまで値上げをする施設があったということでしょうか。もっとも、そこまで露骨な値上げがどれほどあったのかまでは不明ですが、無償化対象の子どもがいる世帯にだけ値上げをした例もあるようで、いささか考えさせられる状況ではあります。理由は職員の待遇改善というのが大半だそうですが、確かに経営が必ずしも順調に推移している施設ばかりではなく、これまでは、値上げすれば入園者が減る可能性もあり、少子化が進む時代にあって経営環境を変えることが出来にくかったことはあるでしょう。
 特に、共働き世帯が増える傾向にある中、幼稚園より保育園を希望する家庭が増加していることから幼稚園経営が悪化している事実は全国的に広がっているといいます。職員の確保にしても、給与水準の高い大都市圏に集中する傾向もありエリア格差は広がる傾向にあるようです。
 しかしながら、幼児教育の質を上げるための無償化目的が、単なる経営改善の補助金的性質になりはしないか。それが、職員の安定的確保や良質なモチベーションの向上につながるかどうか、経営者自体の報酬アップにはなっていないか、施設の修繕改築に充てられることはないのかなど、判定には一定の期間が必要でしょうし、なかなか難しい問題だと思います。
 要するに、制度開始にタイミングを合わせての料金改定が、意図的かつ便乗的に感じられる点は拭えないとしても、経営環境の改善が真に子どものためという実態に至れば、それはそれで幼保無償化制度の効果とみなすことも可能だろうと思われます。
 ともあれ、子ども及びその世帯のための無償化と思っていたものが、恩恵を受ける対象が子ども世帯だけではなく経営者側に広がっている実態。税金の使い方というのが、いかに難しいかという一つの例だと感じます。